先日予告(?)した本の感想。
『あなたも酒がやめられる(徳川夢声著)[文芸春秋新社]昭和34年5月10日初版、昭和34年5月20日再版』
まだ、読み終わってないのだが、この本、面白い章立てで、17章あって、第1章目が、いきなり本論「あなたも酒がやめられる」なのだ。
残りの章は、第1章で箇条書き程度に書かれた、著者のアルコール中毒者としての数々の大失態の詳細が述べられている。
さて、先ず、著者の徳川夢声と言う人は、一体誰なのか?
1894年(明治27年)生まれ。大正から昭和にかけて活躍した、活動弁士、漫談家、作家、俳優。と出ている。亡くなったのが1971年なので、ご存じない方が多いだろう。私も、名前だけは聞いたことがあった。
この本を書いた時が64歳で、その後77歳まで活躍しておられるので、途中で酒をやめて、長生きされたようだ。
夢声氏は、10代の頃から飲みだして、活動弁士の仕事中も、酔っ払いながらやっていることが多かったそうだ。
活動弁士の仕事って、なに?と言われそうなので、ちょっと説明しておくと、無声映画の時代に、スクリーンに投影される動画を見ている観客に、滔々とセリフやら状況説明をする仕事だ。
第二次大戦の頃は、酒も容易に入手できなくなり、それほしさに軍部への慰問に頻繁に出かけたそうだ。それと、病院の慰問に行って、薬用アルコールをもらっては、喜んで飲んでいたという。
そんなわけで、酔っ払っての醜態・痴態は、数限りなく、あり過ぎていちいち数えられないくらいだと。
酒の為に身体を悪くして、入院も7回に及ぶ。第1回目の大正13年の夏から、第7回目の昭和26年の夏まで、というから、実に30年近くに渡って、出たり入ったりしていたわけだ!
でも、夢声氏は、入院を繰り返しただけではない。禁酒も繰り返したのだ。が、長くて3週間、短くて1日で、その禁を破ってしまったのである。
・・・もう、永久に禁酒だ!
・・・死ぬまで一滴も飲まんぞ!
元来人間なんてものが、永久にだの、死ぬまでだのと誓いを立てるのが、はなはだ不自然であり、初めから無理であると、夢声氏は、喝破している。これは、私も同感だ。
それで、禁酒も断酒も、その文字にうんざりして、”停酒”という事にしたのだそうだ。
”停酒”とは
『A、周囲の情勢、どうしても飲まざるを得ない条件が揃ったら、これは仕方がない、いつでもそれに従って私は飲む。
B、私自身の感覚で非常に飲みたくなったら、いつでも飲む。』だそうな。
・・・どうしても飲みたくなったら、俺はいつでも飲むさ。
これが、自然だと。で、この、どーしても、の限界をどこに置くのか、がキモだという。
・・・いつでも飲めるんだ!
と、そう思っていることにより、返って心は酒から自由になり、”停酒”の心理的苦痛は殆ど解消されるそうだ。本文には、
『他から強制されているのではなく、自分の自由意志で、現在唯今飲まずにいるだけだよ、とこう思うと気がラクである。
この現在唯今を、気が向くままに続けるのである。気が向くままに死ぬまで飲まないのも御勝手である。』と書いてある。
なーるほど。私には、そういう考えは全然なかった。どちらかというと、人間には無理だと夢声氏が言われる、死ぬまで絶対に飲まない!という考えでやってきた。
最後の方に、本当にやめたい人への夢声氏のアドバイスがあるので、簡単にご紹介する。(ほぼ、原文のまま)
1.最後の一杯を飲んでからの、24時間が一番大切である。
2.アルコールは24時間で殆ど完全に排出されるからである。
3.しかし、この24時間の最後の数時間が実にやりきれない気分である。
4.ここで、つい一杯やってしまうことのないよう!
5.もし食欲があったら飯を食う事。それも脂っこいおかずなどは避けて、白い飯を胃袋に押し込む。
6.米という有り難きものが、毒物を吸収してくれてラクになる。その時、吐きたくなったら、吐くとよろしい。
7.食欲がなかったら、砂糖湯を作って、酒を飲むつもりでキューッとやる。気分が楽になること請け合いである。
8.有機化合物の分子式で、アルコールと砂糖を比べてみれば、その似ていることに驚く。
これも、酒をやめる、断つための、またひとつの考え方、方法だと思った。一番のキモは、繰り返しになるが、
『他から強制されているのではなく、自分の自由意志で、現在唯今飲まずにいるだけだよ、とこう思うと気がラクである。
この現在唯今を、気が向くままに続けるのである。気が向くままに死ぬまで飲まないのも御勝手である。』というところだろう。
自分が生まれる前に出版されていた、酒をやめる本。
それにしても、不思議な本に巡り合ったものだ。購入後、ネットで検索してみたら、結構な値段で売られている古書であった。それを私は、ナント、ワンコイン(500円)で購入したのだ。これは、もう私の家宝だ。
50年以上も前の本だが、書いてあることは、全然古くない、どころか、今再出版して、多くの酒をやめたい人の目に触れるようにならないかなー。
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