読書感想文は、久しぶりかな。
『「依存症」社会(和田秀樹著/祥伝社新書)』
ちょっと調べたら、著者の和田先生は、精神科医の他に、受験アドバイザー、評論家、臨床心理士、国際医療福祉大学大学院教授、起業家、映画監督、小説家、 複数の大学、大学院の非常勤講師、予備校の顧問など、実に色々な顔をお持ちのようだ。
アルコール依存症だけではなくて、その他の依存症についても書かれているが、一貫して主張されていることは、二つ。
ひとつは、日本のマスコミは、依存症は、「意志の弱い、ダメな人間」がなるもの、というデタラメな情報を垂れ流している。本当はそうではなくて、依存症は病気なので、適切な治療が必要なのだ。
もう一つは、今の日本は、「依存症患者」を意図的に増やし、その人たちから利益を巻き上げるビジネスで成り立っているということ。つまり、恐ろしい表現だが、「依存症に依存する」社会だと、喝破している。
それと、アルコール、覚醒剤、麻薬、ニコチンなどの、物質に対する依存は、治療方法が確立されているが、ギャンブル、買い物、セックスなどの行為に対する依存は、研究途上であり、治療プログラムがまだ確立していないそうだ。
その他、現代社会の申し子、携帯依存症、ネット依存症についても解説がある。
ドーパミンと脳の報酬系の関係で、依存症を説明する他に、最近注目されている説が、脳のプログラムが書き換えられてしまうというもの。何年もかけて教育を受け、社会性を身に付けた脳のプログラムが書きかえられて、ゼロに、下手するとマイナスになってしまうのが、依存症だと言う説も、私には新鮮だった。
私がこの本で一番ショックを受けたのは、第2章「常にそこにある再発の恐怖」に書かれている男性の例。
この人は、仕事柄毎日のように大量に酒を飲み、アルコール依存になった。家族にも会社にも大迷惑が掛かるようになり、医療機関を受診し、断酒した。そう簡単ではなかったが、断酒することが出来て、平穏な暮らしが戻った。
ところが、5年間全く飲まなかったのに、ある大きなプロジェクトの完成の祝いの席で、「ほんの一口だけだから、大丈夫だろう」と、ビールに口をつけてしまったのが、転落の始まりだった。そこで正体が無くなるまで飲み続け、帰宅してからも更に飲み、それ以後、毎日浴びるように飲む生活になってしまったそうだ。
その後、肝障害を起こし、会社もやめたが、それでもアルコールを断つ事が出来ず、ある日忽然と姿を消し、行方不明となった男性は、二年後、山中で白骨化した死体として発見されたそうだ。
5年間も酒を断っていても、断ったひと口のビールで、真っ逆さまに地獄の底へ落ちて行くのだ。
私など、たった丸2年と1か月やめているだけで、酒なんぞ大嫌いだから、飲むわけがない、と嘯いているが、たったひと口の酒で転落する可能性があるのだと言うことを、矢張り真摯に受け止めて、常に警戒を怠らないようにしないといけない。
それと、著者は、特にアルコールについて、マスコミ・マスメディアの有り方について、警鐘を鳴らしている。酒造メーカーからの収入が、彼らの高給を支えているわけで、ネガティブな事を書くわけがないのだ。
この本は、現代社会の暗部をえぐって、正論を吐いている。是非、ご一読をお勧めする。
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