『脳は変わる ニューロプラスティシティ(モーヘブ・コスタンディ[著]/水谷淳[訳])日本評論社』
成熟した脳、つまり大人の脳の構造は固定されており、「老犬に新たな技を教えることは出来ない」と、昔は言われていたそうだ。
私も、脳に関しては極一般に言われている次のような通説を信じていた。普通の人は、140億とか1000億とか、その数を表現される脳細胞の内のほんの数パーセントしか使っておらず、かつ一日に10万個程度の脳細胞が死滅している。
だが、最新の研究結果について書かれたこの本によると、どうも違うようである。私たちのような大人、しかもかつての飲んだくれ時代にかなり脳にダメージを与えた大人でも、自分の脳にもっと期待出来るようである。
これまでの膨大な研究によれば、成人の脳は変化する能力を持っており、私たちの行動や経験に応じて、脳は一生の間に何らかの形で絶えず変化することが分かって来たそうだ。これのことを、この本では「神経可塑性」と言う言葉で表している。
身体活動、環境強化、学習課題などの脳への刺激は、神経幹細胞の増殖を高め、新生ニューロンの生存を促すが、ストレス、炎症、感覚遮断は、全く逆の影響を与える。これから察するに、飲んだくれ生活は、脳には絶対に良くないな。
脳力トレーニングのナビゲーション知識についての説明で、ロンドンのタクシー運転手についての記述があるのだが、結構面白い。
ロンドンでタクシー運転手の免許を取得するには、何年間も幅広い記憶のトレーニングが必要で、ロンドン中心部にある主要なターミナル駅のチャリングクロス駅から半径6マイル以内にある約2万6千本!の入り組んだ街路の配置や、何千か所もあるランドマークの場所、更に、市内の任意の2地点間を結ぶ最短ルートを記憶しなければならない。
ちょっと気が遠くなりそうだが、ロンドンでタクシーの運転手になりたい人は、3~4年間の歳月をかけて、地図を覚えたり、実際に街を走ったりして、上記の知識を覚え込むのだそうだ。その間にも何度もある試験によって、ふるい落とされて行き、志願者の数は減る。
ロンドンを走る有名な黒いタクシーを運転するのは、並大抵の努力では出来ないことだと書いてある。ロンドンのタクシーの運転手になりたい人は、酒飲んでるヒマはないな~(^^;)
このロンドンのタクシーの運転者の協力を得て、研究者がその脳を調べた結果、タクシー運転の為のナビゲーション知識を得るための訓練によって、脳の解剖学的特徴が特定の形で変化することが分かったそうだ。
結論的に、脳は、使う人の要求に合わせて大きく変化する器官であるとのこと!
なんとまあ、嬉しい研究結果ではないか!
かつて飲んだくれて、かなりな脳委縮やら脳へのダメージやらがあったと想像できるのだが、このように、脳のダイナミックな部分を知ると、断酒後の己の脳に、まだまだ期待が持てるのだ。
最後に、第8章「常習性と痛み」に、私たちアル中が知っておいたほうが良いことが書かれているので、紹介しておく。
「常習性薬物は、脳の報酬系を活性化して乗っ取り、それによって起こる変化は、脳の中からその物質が消えても長い間残って、渇望や強迫的な薬物探索行動を引き起こす。」
そう、酒(アルコール)は常習性薬物である!
この辺り、そのメカニズムは第8章に詳しく説明されている。キーワードは、ニューロン、ドーパミン、側坐核・・・面白いので、ご一読を勧める!
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