『僕の命は言葉とともにある(福島智 著/致知出版社)』
今日紹介する本は、いつものアルコール依存症関連ではない。
皆さんは、東京大学教授の福島智さんをご存じだろうか。
この本のサブタイトルに、著者のことが端的に説明されている。
「9歳で失明
18歳で聴力も失った
ぼくが東大教授となり、考えてきたこと」
福島先生のように、完全に目も見えず、完全に耳も聴こえない状態のことを、全盲聾(ぜんもうろう)と言う。
目、耳、どちらか一方ではなく、両方とも機能していない状態である。
では、どうやって他の人とコミュニケーションするのだろうか。指点字と言う方法を使うのだ。福島先生は、18歳まで音が聴こえていたので、自分の声は聴こえないながら、流暢に喋ることが出来る。youtubeで先生の声を聴いた。
福島先生が、人生についてどのように考え、失明、失聴をどう捉え、乗り越えて大学に学び、東大教授にまでなられたのか、それは是非この本を読んで頂きたい。感動することを保証する。
私が驚いたのは、福島先生の読書量である。点字の読書は、目で読むよりも2~3倍の時間がかかるとおっしゃるが、古今東西のあらゆる本を読んでいらっしゃる。しかも、それが全部頭に入っていて、本の中のあちこちにキラリと光る読書の知識が散りばめられているのだ。
先生はこの本の中で、人間にとって「幸福」とは何か、と言う事を繰り返し考察されている。芥川龍之介の「杜子春」を中学生の時に読んで考えたと言う話や、23歳でハンセン病により夭折した作家・北條民雄の「いのちの初夜」を読んでの感想など、私などより読み方と思索の深さが違い、驚くやら感心するやら。
最後のほうに、酒が出て来る箇所があって、桂米朝が、落語で紹介していた古い狂歌を題材に、真の幸福とは何かを考察されている。
『楽しみは後ろに柱前に酒、左右に女ふところに金』
この短い歌の中に、男の典型的な欲望のエッセンスが詠いこまれていると、先生はおっしゃる。
初めて知ったけれど、面白い歌である。先生の解釈では、柱は立派な住居、酒は美食、女は異性にモテること、金はもちろん経済的な余裕である。がしかし、本当にこれらが揃えば幸福なのだろうか?
もちろん、そうではない。これらが揃っても、決して幸福になることは出来ないと、私も思う。もっとも、「後ろに柱前に酒」は分かるが「左右に女ふところに金」は経験したことがないけれども。
もっともっと書きたいのだが、長くなってしまうので、最後にひとつだけ。
ナチスの収容所を生き延びた、ヴィクトール・フランクルの言葉から、絶望と苦悩は違うのだ、と言う話を。
「絶望=苦悩マイナス意味。つまり、絶望とは意味なき苦悩である」
苦悩は絶望とは違うものであって、苦悩には意味があることを示している。このことを、フランクルの本から学んで、福島先生は深く納得されたとのこと。
ここから、福島先生は更に一歩進めて、
「意味」を左辺に、「苦悩」を右辺に移項して、
「意味=苦悩ー絶望」
「絶望」の反意語を「希望」と置けば、マイナス絶望は「希望」となるので、
「意味=苦悩+希望」
つまり、苦悩の中で希望を抱くこと、そこに人生の意味があるのだ、とおっしゃっている。
何と素晴らしい公式ではないか!断酒にも、もちろん人生全般にも通用する。この公式、これだけは是非紹介したかったので、安心して筆を置く。
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